Lesson

読んだり、飲んだり

ST.VINCENT

今日は学校のそばの名画座で「ヴィンセントが教えてくれたこと」という映画を観た。パンフレットの紹介文からして好みなような気がしていたのだった。まず、コメディであること、そして、漂うホモソーシャル感。

話の筋としては、認知症を患う妻をもつひねくれ者の不良ジジイと、その隣に引っ越してきた家庭環境の複雑さゆえにこまっしゃくれたいじめられっ子が色々あって仲良くなり、彼らが仲良くすることで彼らの周囲もまた幸福になっていくといったところである。

まず、出来の良い映画だと思った。会話の軽妙さは寒かったり、鬱陶しかったりするそのちょうど一歩手前くらいの塩梅で、上映中も何度か笑い声が起こっていた。不必要なカットもそれほどなく、103分という上映時間にぴったり収まっている感じがした。劇中曲も往年のロックミュージックがやはりという場面にあわせて流れる。その微妙なダサさがこの映画とうまくマッチしているのではないかと思う。芝生の生えていない砂だらけの裏庭でデッキチェアに寝そべりながらBob Dylanの「Shelter from the storm」を調子っぱずれに歌うエンディングはかなり好きだ。

ただ、話の筋も画面も特段新鮮ではない。退屈なところも多々ある。違和感があるところも非常に多い。何より、動機の弱さや問題の棚上げ、つまりご都合主義が目立つ。「なんで?」とか「あれはどうなったんだ?」というような場面が個人的には多かったと思う。特に、映画の終わり、体育館でのスピーチコンテストというとても盛り上がる場面がいまいちに感じた。この場面はありていに言うと、ジジイと子どもの仲直りシーンであって、それまで二人が触れ合ってきた人物がことごとく一堂に会すのである。そのオールスター感、パーティー感が気分を盛り上げてくれるはずなのだが、ここで出て来る脇役たちが作中を振り返ってみるとまさしく字の通り脇役なのである。飲み屋で飲み過ぎたジジイをたしなめる彼の友人は本当にそれ以上のことをしないし、ジジイの妻が預けられている介護施設の職員は小洒落た業務会話をいくつか繰り返すだけだ。子どもの父に至ってはこのジジイと面識がないばかりか、隣に仲良く座っている母親とは離婚調停で親権を争ったばかりである。スピーチそれ自体は良かった気もするので、残念だった。

ということは、そんなに良くなかったのかというとそうでもない。主役のジジイ、ヴィンセントを演じたビル・マーレイといじめられっ子オリバーを演じたジェイデン・リーべラーがとにかく良かった。ビル・マーレイは後悔したり思いつめたり、悲しげな顔がとても良い。脳卒中で倒れたあと、口がうまく回らなくなる様子は見事だった。ジェイデン・リーベラーはその見た目や所作から、一言も喋らなくてもはっきりとわかるくらい理知的でこまっしゃくれた雰囲気が全面に出ていて素晴らしかった。あんなにいじめられそうな子どもも珍しいと思わせられた。とにかく、役者がいいので、彼らが出て来るとそれだけで面白く感じられ、テンションも上がる。

移民、養子、シングルマザー、妊婦、風俗業、認知症、介護施設、宗教など、マイノリティや文化、社会情勢からも考えられるのかもしれないが、それはどうか。少なくとも今回はしなかった。また観ることがあればするかもしれないし、やはりしないかもしれない。

何にせよ、たまに観る映画としては良いと思う。