Lesson

読んだり、飲んだり

図書館

地元の図書館に出かけた。

地域で最大の場所であり、三階建てだ。一階と二階にそれぞれ閲覧スペースがある。

三階はホールになっていて、地域の戦時資料が常設展示されている。しかし、ここには一度も入ったことがないのでよくわからない。入っていく人すら見たことがない。館内の掲示板に隙間なく貼られた地域の催し事を知らせるポスターは、時期によって頻繁に貼り替えられるというのに、三階の展示はいつも戦時資料である。もしかしたら、展示などはなからやっていないのかもしれない。もぬけの殻だ。

目当てだった「雑誌・新聞コーナー」は一階、玄関から入ってすぐにある。

知っての通り、「雑誌・新聞コーナー」というのは「行き場を失った者たちの吹き溜まり」の別名である。平日の昼日中になぜか暇を持て余してしまっている者たちがとりつかれたように声もなくうごめいている。利用者の多くは必然的に老人である。

彼らは朝も読んだであろう新聞を開いてみたり閉じてみたり、近づけたり遠ざけたりしながら、隅から隅まで記事を読んだり読まなかったりしている。それを幾度となく繰り返す。

端的にこの世の終わりである。三途の渡しの待合所と言われれば信じる。

しかし、何もすることがないときに文字を追うことを選ぶというのはすごいことかもしれない。今どき、金をかけずに暇が潰せる場所など腐るほどありそうなものだが、彼らは新聞を読んでいる。どんなに消極的な理由からそうなっているとしても、やはりすごいと思うし、面白い。

彼らに混ざって文芸誌を読んでいると、フロアの端から何やら声がする。
「おい、何やってんだ、お前!」
当然、素知らぬふりをする。この地域の老人はむやみに気性が荒い。
ほどなくしてスタッフが声のした方へ駆け寄る。
「どうされました?」
「いや、こいつ、失禁しちゃってるよ」
周囲に聞こえているはずだが、誰も反応しない。みんな手もとに目を落としている。
スタッフが代わる代わる向かっては何かしら世話をしたあとに、ひとりの老人男性が脇を抱えられて外へ連れていかれた。冬だというのに半袖のシャツに、鼠径部が露わになるほどずり下がったズボンのいで立ちで、片手にスーパードライのロング缶を持っていた。気の毒だなとも思ったが、意外にいいもん飲んでんじゃねぇかとも思った。

その後、二階に場所を移して読書を続けた。社会人席などというわけのわからない席ができていた。子どもはお断りということだろう。しかし、うるさいやつというのは年齢や立場に関係なくうるさい。「静かな人向け」とでもすればよかったと思う。

いちばん奥まった電源のある席に陣取ったら学生に囲まれた。みんなちゃんと勉強していた。声も抑えていた。抑えることでより目立っていたけれど。

彼らは物音に敏感に反応する。席をたつときも、戻るときも視線を浴びることになる。10分から15分くらいに一度はスマホを確認する。グループで勉強しているところは、そのうちの一人が必ず飽きている。

ここが不思議と落ち着いた。見栄をはろうとするからかもしれない。息止め競争みたいなものだ。

愉快だった。受付が民営化されて妙にハイテクになってしまったことを除けば。