Lesson

読んだり、飲んだり

びわ

昨日、飲みに行った居酒屋にびわ酒があったので何とはなしに頼んでみた。びわ独特の、体にあまり馴染まないような、薬のような風味がした。洋梨やパッションフルーツを食べるときの感覚に近い。古くから日本にあるものらしいが、いまいちピンとこない。

建て替える前の家にはびわの木が植わっていた。庭とも言えないごく狭いスペースに5,6メートルもの立派な木が立っていた。向かいの家にも同じくらいのびわの木があって、その種が鳥か何かに運ばれて我が家に根付いたらしい。子供の頃こそ、あの橙色の実が二つ三つ寄り添うように枝になるのを楽しみにしていたものの、今思ってみれば、面倒のほうが多かった。

まず、実がなればそれを狙って鳥が来る。糞や羽はもちろん、食べ残したびわの実が家の前の道路に散らばり、それを掃除しなければならない。春になれば虫が湧く。ぐんぐんと伸びる枝は電線に触れないように定期的に切り落とさなければならない。高枝切狭は置く場所もとるし、使うのにも体力がいる。できた実はどれもが食べられるわけではなく、渋いものも多い。

母は取れた渋い実をはちみつと酒に漬けてびわ酒を作るのが好きだった。しかし、作るのが好きだっただけでほとんど飲まなかった。床下に眠らせておいた酒瓶が年ごとに増えていった。建て替えのとき、床下には年代物のびわ酒がいくつも見つかった。

そのびわの木は家を建て替える数年前に業者を呼んで切り倒した。びわではしゃぐ人間が家族のなかに一人もいなくなったからだろう。たいしてうまいもんでもない。